所沢三田会 歴史研究会6月例会 一色晃造氏による座学 「日本人の愛国心を考える」
- tokorozawamitakai4
- 6月11日
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雨上がりの晴れ渡った青紅葉が咲き乱れる水無月の15時、新所沢公民館に11名が集合して一色氏による座学が催されました。テーマは『日本人の愛国心を考える』でした。
先ず、愛国という概念の歴史から始まり、ローマ帝国時代のキケロによる「パトリオティズム理論」からフランス革命における「ナショナリズム的軍事パトリオティズム」への変遷を紐解きました。
続いて日本におけるパトリオティズムが当初は「愛国」ではなく「報国」と訳されていたとの事です。つまり「国を愛する事」ではなく、「国の恩に報いる事」と変容され、続いて「敬神愛国」というスローガンから「愛国」が定着したと教えられました。
福沢先生は日本を西欧並の文明国にして自国の独立を保つ強国にするよう訴え、言論の自由・人や物の自由な交流・人民の平等を唱え「脱亜入欧」を主張しました。そして、それまでの「藩」に対するパトリオティズムから「日本国」に対するパトリオティズムへ移行すべきと説きました。筆者はこの当時、福沢先生のように思想が3百近くある「藩」の単位から脱却し、一つの統一した「日本国」という単一国家単位で考える事ができる人がどのくらいいたのか、と思いを寄せました。
明治時代は3つのタイプのパトリオティズムがあるとの事でした。最初に徴兵制に繋がる「軍事的パトリオティズム」、次に天皇制や武士道精神の基づく「ナショナリズム的パトリオティズム」、最後に国を伝統や慣習という歴史的存在と捉える「保守的パトリオティズム」です。そして、西欧における国家存立の思想的バックボーンに歴然と存在する「キリスト教」に倣い、日本では独自に万世一系の「天皇」を神格化して国家存立の思想的バックボーンにしました。
西欧白人国家が世界を我が物顔に競い合いながら食い尽くし植民地化していった帝国主義時代に東洋の反逆という歴史的世界観の下、唯一、非白人種の日本人がロシアという白人の大帝国との戦争に勝ち、白人支配に風穴を開けたのでした。そして、アジアの盟主として世界に躍り出たのです。おかげで日本は西欧白人国家と肩を並べるレベルまでに成長し、やっと西洋国家群と対等に仲良くやっていける世にたどり着いたという事で、福沢先生のお考えが実現しました。
ところが白人帝国主義国家群による人種的な差別の殻を破る事ができませんでした。よって、日本は日露戦争勝利の勢いがそのまま慣性の法則に倣い止まらず、現在のEUの先駆け的思想と思われる「大東亜共栄圏」というアジアにおける国家群の共同体を構築し、日本が盟主となり欧米の支配から抜け出し自立して繁栄するという理想を掲げ邁進していきました。
その全てが否定されたのが先の敗戦です。その結果、日本における戦争の歴史観が二通りに分裂しました。一方は反愛国と呼ばれる左翼派や進歩派で、「侵略戦争史観」を唱え、先の戦争を「アジア・太平洋戦争」という名称で掲げました。他方は、愛国派による欧米からの解放であるとの「解放と自衛の戦争史観」があり、「大東亜戦争」という名称にこだわりました。
しかし、アメリカ占領軍を中心とした連合国による一方的な「東京裁判」を経て、「軍国主義者によるファシズムによる覇権的支配を目的とした侵略戦争という道義的に間違った戦争」であると位置づけられ、この戦争はファシズム対民主主義の戦いという定義づけがなされました。そして、必然的に日本国民に愛国心・日の丸・君が代などをタブー視するように洗脳しました。
米国の歴史観は孤立主義と世界覇権主義を行ったり来たりしてきました。それまでの孤立主義を捨て、第一次世界大戦に参戦したと思ったら戦後に孤立主義に戻ってしまい、自らが提唱した国際連盟に参加しなかったのです。第二次世界大戦後、世界最大の軍事力と経済力をベースに「自由・民主主義と市場経済を守る」というスローガンを掲げ、再び世界覇権主義を邁進しました。ところが、軍事的にも経済的にも往時のパワーに陰りが出始め、トランプ登場によりアメリカ第一主義に戻りつつあります。
最後に「戦後日本の愛国心とは」を考察する事で締めくくられました。朝鮮戦争勃発時における世論調査で、再軍備の賛成が53%、反対が27.8%という結果が出ました。しかし、当時の吉田首相は戦後の復旧が急務であり日本の安全保障は国連に委ねると判断しました。そして米国主導の下、その後自衛隊となる警察予備隊が創設され、日米安保条約が締結されました。
世界は冷戦体制を経て米国主導によるグローバリゼーションが推進され、軍事力の一極集中化、高度情報化社会、生活の便利さ追求が進展しました。その恩恵を受けた日本は安全保障より経済復興発展に注力し、一時は米国に次ぐ世界第二の経済大国になりました。
第二次安倍政権は「勝者の判断」に基づく東京裁判の歴史観からの脱出を進め、特定秘密保護法を制定し、武器輸出三原則を緩和させました。一瞬、筆者の脳裏に安倍元首相暗殺は東京裁判史観から脱却しようとした為ではなかったかと思いがよぎりました。講演は続いて、現在の情報化社会の進展、世界秩序の変化、価値観の多様化、米国任せや官僚任せからの脱却を踏まえ、新しい愛国の模索が求められているということで締めくくられました。このような高尚な講義の後、それぞれにある愛国心への様々な思いが出され、活発な意見交換がなされ、大いに盛り上がりました。
ここからは筆者の独り言という事でお許しください。長年「愛国主義」とは何なのか?という疑問を持ち続けました。なぜ日本という国には国旗「日の丸」や国家「君が代」を嫌い、日本という国家を批判ばかりする勢力が跋扈しているのか、不思議でした。なぜかというと、筆者は帰国子女で1962年(S37)から1966年(S41)まで、つまり小学校3年生から中学1年の5年弱をアメリカのサンフランシスコで過ごしました。アメリカではすべての州の小学校にて毎朝、授業が始まる前に教壇の横に掲げられた合衆国国旗に向かって教師が率先してクラス全員が右手を左胸の上に置き、起立して『忠誠の誓い “Pledge of Allegiance”』を声高々に宣誓します。その内容とは;“I pledge allegiance to the Flag of the United States of America, and to the Republic for which it stands, one Nation under God, indivisible, with liberty and justice for all.”
「私はアメリカ合衆国国旗と、それが象徴する、万民のための自由と正義を備えた、神の下の分割すべからざる一国家である共和国に、忠誠を誓います」
毎日、アメリカの全小学生はこの『忠誠の誓い』を国旗に向かって宣言し、その後、合衆国国歌「星条旗 “The Star Sprangled Banner”」並びに第二の国歌と云われる “America The Beautiful” や “God Bless America” 等を唄います。古希を過ぎた筆者もいまだに暗唱できるほどの洗脳教育です。このようにアメリカでは幼児の頃から徹底して愛国主義を植え付けようとしています。たぶん、「州」と訳されるstatesは実質「国家」であり、あらゆる人種や宗教が入り混じった「人種のるつぼ」なので、合衆国として統一された国家としての愛国精神を幼児の頃から徹底的に植え付けるという洗脳教育をしているのだと思いました。
現在、アメリカの分断が盛んに日本のマスコミを賑わしております。テレビのワイドショーで知ったかぶりしたコメンテーターが分断への大いなる懸念を訴えております。不安ばかり煽っています。しかし、アメリカ人のいざという時の団結力は凄まじいものなのだという事を理解していないのでは、と思います。9.11同時多発テロ事件の時に全アメリカ人の団結力を目の当たりにしたと思います。純粋たる日本人である筆者でさえ、洗脳教育の効果が表れてしまい、テレビに釘付けになり、自然と一緒に“America The Beautiful” や “God Bless America”を唄っていました。スポーツイベント、例えば野球のワールド・ベース・ボール・クラシックス(WBC)やサッカーのワールドカップの時の “USA” コールの凄さを見ればわかります。たぶん推測するに、南北戦争の影響が大きくかかわっているのではと思います。南北戦争では両軍合わせて50万人近くの戦死者を出し、民間人死者を合わせると70~90万人に上るとされており、これは今日に至るまで、戦争における合衆国史上最大の死者数だからです。ちなみに第二次世界大戦時におけるアメリカ人戦死者数は30万人です。
筆者のこのような育ちの背景から、前述の疑問である、なぜ日本という国は国旗「日の丸」や国家「君が代」を嫌い、日本という国家を批判ばかりする勢力が跋扈しているのか、について色々調べました。行きついたのはアメリカ占領軍による “WGIP=War Guilt Information Program (戦争についての罪悪感を日本人の心に植え付けるための宣伝計画)”でした。高橋史朗氏、藤岡信勝氏、保阪正康氏、西尾幹二氏、ケント・ギルバート氏など色々な著書にて、この宣伝計画の優等生となったのが、左翼と称する人々、社会党、共産党、進歩的文化人と自ら称する人々、日教組だと知りました。
今回の一色氏による講演で、「愛国」に関する概念がより深まり、素晴らしい勉強の機会をいただきましたことを改めて紙面にて感謝します。
以上
監修:一色晃造
文責:伊藤芳康
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