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世界水泳選手権大会  於ブタペスト 観戦記


東ヨーロッパを縦断するドナウ川はブタペストを通り抜けるとき中洲にマルギット島を抱く。

そこは2キロ半にわたる縦長の島で、数個のプールを持つ市民憩いの公園である。この地で育まれた水球はやがて世界の歴史となる強豪チームの伝統を作り上げ、同時にここが世界水球人の憧れの場所となったのである。

2017年7月16日 世界各地域の予選を勝ち抜いた各国代表16チームがオリンピックとは別の意味での実力世界一の名誉をめざし聖地ハンガリーに参集した。

日本チームは強豪3チームのいるグループに入り、クロアチア、アメリカには歯が立たず、せめて実力が近く、勝利実績のあるソ連にだけは勝てるかとの期待があった。

ところが初戦ロシアに対し8-15という大差で敗れてしまった。これは前試合でのレッドカードがあって主将であるフローター志水が出場停止だったことや1ピリオッド早々に味方デイフェンス2人が永久退水となる不運が重なり一挙にリードしたソ連を追いきれず敗退したものである。

したがって次のアメリカ戦は起死回生の願いをかけたものとなり、チームの意気込みや執念を見せる試合となった。

7月19日、そのアメリカ戦はハヨス アルフレードにて行われた。第一ピリオッドは両軍まだシュートが不安定で,再三のミスシュートののち米国がドリブルシュートを決め先制した。しかし日本も3本目のシュートが相手GK肩口を抜き同点となる。

このシュートが敵GKの弱点を突いたことでその後の日本の放つシュートの手本となった。互いに退水後の得点をとれず時間経過する中、残り0秒近くで不覚のハンツーシュートを受ける。2pに入るとすぐ相手退水から足立のミドルシュートが決まる。早いボール回しが敵陣を崩したもので,退水時の攻撃のパターンを生かした。日本退水から敵のミドルが決まり、その後敵の退水で日本のワンツーが決まる。再び時間の読めなかったことから、相手攻撃時間0秒残で決められ3-4となる。そして大川の単独ドリブルから水面シュートで同点となる。

このころから日本得意のパスカットが生きてきてマイボールが多くなり、さらに退水~足立の好パスがハンツーシュートとなる。敵9番のノーマークシュートにGK棚村の好セーブからカウンターとなり、6-4で終わる。ここまでシュート数はほぼ互角であったが、日本がGKの顔野脇を突いたのに対し、敵のシュートは日本GK棚村の読みにはまつていた。日本の守備力が攻撃の起点を作り攻撃での退水誘発につながった。

3ピリオド開始すぐ退水からミドルシュートを日本がはずし、その反撃での敵の攻撃で1点が入り6-5となる。強敵に対し始めてリードする展開でやや硬くなったのか、シュート二本をつづけてはずすも、米のシュートも平凡で一進一退を繰り返す。

そこでフローター志水が相手マークの強烈なハードアタックに堪え、粘った末ペナルテイスローを得る。これを足立がGKの意表を突く真ん中顔脇へきめ7-5とした。ここが勝負の分れ目の感があり、この後相手は泳力を補う反則が多くなり、さらにGKを中心とした日本の守備の硬さから、ゴール枠外やGK正面へのシュートが目立ち始めた。

徐々に日本に勢いがつき志賀のリレーシュートで8-5、米左腕選手のハンツー1点後日本荒井が敵圧力に耐えたのちゴール前に突っ込み、吉田からの短い好パスをGK脇の下へきめる。このあたりから米の泳ぎに疲れが見え、個人技でカバーしようと体を回し手をつかむ行為が多くあり、また日本のパスカットによりゴール前への突込みができず、いたずらに自分の持ち時間を浪費した。そのあと反撃の日本カウンターで10-6となる。

強チーム相手に4点差で4ピリを迎えることは往々にして勝ちを意識した緊張感で逆転される。リオ五輪での対ギリシャ戦がまさにそれで日本は3ピリオド迄3点リードするも、その後4点を取られて大魚を逃したのであった。4p開始後的にシュートリバウンドを押し込まれ、10-7となり嫌な予感もしたが、そのあと互いのミスシュートがありGK脇下への9番のシュートが決まり残り4分半で勝負の見える11-7となった。

ここからはあきらめの見える相手に対し縦横に泳ぐ日本選手の独壇場となり、ゴールラッシュとなった。最後は志水主将のカウンターが決まり、始めて笑顔を見せた。結果15-7のダブルオーバースコアで歴史上初めての公式試合での強豪国アメリカに勝った。そして国際大会でも強豪国に勝利して決勝に向かうことができたことは快挙であり大きく讃えられると思う。

またアメリカチームは主席役員に慶応義塾大学水球部出身の日本人コーチがいる関係で何回も日本チームへの練習試合を行い、丁寧な指導も受けていた。この大舞台で相撲で言う「恩返し」ができたことにもなり、感謝したい。この後予選1勝3敗で順位決定に臨み、リオの雪辱でブラジルに勝利した。結果日本代表チームは史上最高の世界選手権10位という成績を上げた。

今回日本の新戦法が各国に研究され評価されていることを含め日本水球が確実に前進していることを身を持て体感し、日本開催のオリンピックを目指す日本水球の前途に多大な期待を抱くことができた。希望を併せ持ちつつ見守りたいと思う。

2017,7.31        山本 健


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