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東京2020オリンピックを終えて ――コロナ禍のオリンピック回想――

今般閉幕した東京オリンピックと入れ替わりで高校野球が始まった。

山本健(S32政)

炎熱下の甲子園グランドを純朴な高校生が汗みどろで歩く姿はいつもながら感動を呼ぶ。冗長な五輪開閉会式の直後だけに尚更その感は深い。同じスポーツマンの頂点をめざす戦いである。その片方が、商業主義や国家主体となりその純粋性を失うのは嘆かわしい。

 天災に見舞われた五輪であったが、なんとかやりきれたと言うのが実感で有り、参加選手への感謝と困難を乗り切った関係者へのねぎらいは評価されている。ただし、日本国全体で見た場合、コロナに負けた大会であることは残念ながら印象に残る。舵取りが間違った事は否めない。負の遺産として今後の五輪の教訓に残ると思う。古代、互いの戦争は話し合いで休戦し、選手を出し合って一番早い、強い、運動能力の高い超人を競いあい、それを讃えたのが五輪発祥であった。今回、世界的な疫病との戦争が終わってから開催し、ベストコンディションの競技に臨み、地元民の歓声をうけつつ心置きなく戦い、さらに競技後は日本を紹介するもてなしも体験してもらいたかった。原爆記念日を前にヒロシマも箱根も、あるいは秋葉原なども行かず閉会式の翌日に、一万人の選手たちが帰ったという。私自身往時の五輪ローマ大会では、試合後の市中での触れ合いで、多くのホスピタリティを受け感動した事を、長い人生で抱き続けている。世界の人との触れ合いが心情を持って作られてゆくチャンスであったと思う。


 さて競技に転じれば今回一番驚いたのは地元開催への出場という事が持つ異様なプレッシャーである。前回東京五輪の時私もコーチ側にいてほとんど感じなかった事であるが、ごく当然に金メダルを取れると言われていた選手ほど本人も信じられない体調不良や体感不全に陥ったように見えた。おそらく周りのコーチ陣も予想のつかない脱力、反発力の欠如、運動機能の低下があったように見える。瀬戸、桃田、佐藤翔馬、内村を始め他の競技数人、特に開会式で重要な役を担った選手はさらに重い圧力で、そこに全エネルギーを置いてきたようにも見えた。大阪選手や山縣選手には気の毒であり自分の競技に集中させてあげたかった。

海外試合の場合一種の武者修行的感覚で飛行機に乗り現地で過ごすうちに高揚感が積もり蓄積されたエネルギーを爆発させることが出来る。今回地元であるため開催の是非、コロナの恐怖に加え本来有利になるはずの地元応援観客もいない。なんだかわからないうちに力が出ずスピードが落ちたり得点をミスしたりしていた。一方予想通り優勝した格闘技の選手、元々ダークホースのところにいた新競技の選手の活躍は目を見張るものがあり国民的感動を呼んだ。

 選手には二つのタイプがある。ここという正念場にいわゆる火事場の馬鹿力を出すものと修羅場に緊張し、筋肉萎縮して普段の力の出せないものとである。多分に精神力の及ぼすものだけにコーチにも見抜けない部分があるが、そこを発見し修正あるいは助長するのが仕事である。1964年の東京オリンピックの時は国家前進に燃え上がり、行け行けの機運が選手国民とも横溢していた。目的がぼやけた今回は国民全体にその気概はなく、選手の後押しもできていなかったように思う。


各競技それぞれに一生懸命であり勝敗の感動も伝わって来たが、一方ではオリンピック開催を理由として普段通りの生活を進める事で結果的にはコロナを助長させた人、施政者の強引なやり方に反発、無視する人もいた。

総じて国民的な後押し、盛り上がりに欠けていた事は事実である。

今回委員会は「目標は金メダル30個です」などと言っていた。これは日本だけでは無いが、オリンピックがメダル獲得競争になっていて首脳部の成績や国の名誉に関わっている。米ソの競争に始まったこの風潮がマスコミに支持されメダリストがVIP扱いされている。首脳部もこれに習い4着以下の選手を労うものは殆どない。

メダル競走で選手を煽り、プレッシャーが結果として個人を潰す羽目になる。いい加減にしてもらいたい。世界で6〜8位以内になる事はすごい事であり、それなりに評価されるべきである。特にこのオリンピックで陸上のグランドでは多くの決勝種目で歴史的に評価される結果がでており、それらは室内競技や新設種目のメダルを凌駕するものであったと思う。



三田会の皆さんに応援を要請した水球競技は50数年ぶりの勝利を挙げたが、他五敗して準決勝に進めなかった。着実に力をつけて来ており、もう少しなのだが試合運びが下手で、僅差に泣いた。無観客も不利材料で次回W杯での巻き返しに期待したい。


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